死と安楽の間で

〜安楽死、尊厳死について考えるブログ〜

台湾の“患者自主権利法”とは何か

ディグニタスのホームページには、いろんな国の尊厳死にたいする法律の情報があって勉強になる。今回紹介したいのは台湾である。このホームページによれば、2015年の12月18日に”患者自主権利法“がタイで制定され、たとえ不治の病気でなくても、5体満足者でも延命治療を拒否できる、とある。そして、重要なのは、こうした法律が通ったのはアジアで初めてのことであるということだ。

 

近年、台湾はリベラルなイメージがある。最近、話題になったことで言うと、LGBTのパートナーを認めたり、原発廃止などが挙げられる。これに延命治療の拒否もすでに許可されていたとなると、このブログの趣旨を外れて、むしろ最近の台湾はなぜリベラルなのか、という研究をしたいくらいである。

 

それはさておき、この ”患者自主権利法ー Patient Autonomy Act“ がどのような法律なのか。国立国会図書館調査及び立法考査局の論文によれば、まず現在の台湾では、患者に対して、十分な説明をすることなく治療をすることが可能であるということを背景に、患者に対する権利の保護という観点からこの法律が定められたということである。

http://www.dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9851748_po_02660210.pdf

itemId=info:ndljp/pid/9851748&contentNo=1&alternativeNo=&__lang=ja

 

では、実際の法律は延命治療の拒否についてどのように書かれているのだろうか。以下、患者自主権利法の14条の英訳である。

“患者が次の状態にあり、Advance Decision (尊厳死の決定)を下した場合、医師および医療機関は人口栄養、水分補給、延命治療を中止してよい。

・患者が末期状態にある場合

・患者が元に戻らない昏睡状態にある場合

・患者が半永久的な植物状態にある場合

・患者が深刻な認知症で苦しんでいる場合

・患者が治る見込みのない病気により、苦しみを耐えることができなり、その時点において他に選択できる可能なオプションがもはやない場合、そしてそうした状態にあることが中央当局によって申告された場合

 もし患者がAdvance Decision を下した場合でも、医師および医療機関は彼らの専門的判断によってその実行を拒否することができる。その場合は、患者および関係者に説明をしなければならない。

 医療機関または医師は、本条の規定に従って、生命維持療法および/または人工栄養および水分補給を終了、撤回、または保留した場合、刑事責任または行政責任を問われるものではない。

患者の事前決定に違反する故意または重大な過失行為がない限り、医療機関または医師は損害賠償責任を負わない。”

 

この法律は患者自主権利法という名前であるが、上記の患者の状態においては患者の意思によって尊厳死を選択するのは難しそうだなと感じた。もちろん理念としては患者の権利というのを強調することは大事だというのは前提だが、この14条の最後の方の文言において、尊厳死を選択した場合は自己責任であるということを明記している。もちろん、これは当たり前であるが、他方で、医師の専門的な判断で尊厳死の実行を拒否することができるともしている、これは素朴に言えば、患者自主権利の考えとは反するだろう。

 

尊厳死の決定において、主体、医師、責任ということが重大な論点であることは、この条文からうかがい知ることができる。

では、こうした患者の権利に対して日本はどのようにアプローチしているのだろうか、それを次のブログで紹介したい。